本の紹介「エリザベスの友達」著者:村田喜代子

2024年

 「エリザベスの友達」という洒落た題名と花の妖精を思わせるような女性たちが楽しそうに踊っている表紙絵から、私は勝手に幸せそうな物語を想像していました。
 
 しかし、この本は戦争があった時代に不条理な悲しみや辛さを伴走しながら生きた人々の身からの語りであり、その身の語りを戦争を体験していない世代の人間が、しなやかに受け止めていく。人には、誰にも理解してもらうことのできない根源的な悲しみをもっているのではないかと。そのことが垣間見られる切ないお話でした。(私の感想です。)

 本の舞台は、介護施設で暮らす3人の女性の戦争体験を、認知症になってしまった日々の暮らしの中に、織り交ぜ、浮かび上がらせながら、彼女たちが生きた時代に、私たちを連れていってくれるようなお話です。
主人公は、戦時中、中国の租界、天津で暮らし、戦後引き揚げの体験をもつ初音さんという女性。

 私が3人の女性の中で、忘れられない女性が、土倉牛枝さん 88歳の女性の人生でした。彼女は田舎の牛や馬を飼っている農家で生まれました。若い男性や馬は戦地に連れて行かれるので、行かれないようにとおじいさんが牛枝とつけてくれたのでした。彼女には、三人の兄がおりましたが、出征し、大陸で戦死、兄妹のように可愛がっていた3頭の馬も連れていかれました。彼女が最後、介護施設の部屋で旅立っていく時の様子が、兄や馬を失った深い悲しみを抱えて生きてきた彼女への救いのように感じました。

 この本は、物語ですが、実際の戦争体験者の話を参考にしておられるようなので、牛枝さんのような方はおられたのだと思います。
どうして、「エリザベスの友達」というタイトルなのかを知るためには、ぜひお読みになってほしいと思います。 お借りになりたい方は、お電話ください。山下 090-5023-9282

著者紹介
村田喜代子 (むらたきよこ)1945年4月、八幡市(現北九州市)生まれ。87年に「鍋の中」で芥川賞受賞。
「エリザベスの友達」2018年10月30日発行

2019年8月16日 毎日新聞

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