現在開催中の「戦地からの手紙」展より、ご紹介いたします。
昭和16年8月23日、満洲牡丹江より家族の方へ差し出された手紙(原本一部)です。
本朝は、三つの送り物を心から嬉しく拝受致しました。
随分かかっていますね。こんなにかかるんでしたら、航空でなくてもよかったのですが、皆が小包は来ない筈なのに、お前だけどうしたんだろう等と盛んに云ってお前の所は何処か、どうしたのだ等と不思議がっていました。
立派な千人針まことに有難う御座います。一人息子か長男かなどと人々が羨ましそうに聞きます。
今日は朝から大雨で天幕の中にごろごろして、歌を歌ったり、馬鹿話したり、今日は封書は来て居らんかなあ等とそんな他愛(?)もない事等に興じています。そしたら、事務室(と云っても矢張り天幕)から呼びに来て事務の手伝、雨の日は大抵事務の方を手伝っています。給料等の計算もありますので、よく引っ張り出されます。今日もその為なのですが。
今日、俸給証明書を隊から送る事になりましたので、全部私が発送しますので、(必要な者にだけ)その便にこの便りを書きます。俸給証明書は必要ではないかも知れませんが、会社の方へ或は送る様になるかもわかりませんので、家の方に送ります。会社から支給される給料は僅かでしょうが、妹、弟たちの何にでも全部あててください。
只今は、天幕を張り、そこで日夜防備につとめている訳ですが、今の所格別の事もありません。
何時まで、今の様な天幕生活をするのかわかりませんが、冬には何とかなるでしょう。もう朝など内地の初冬の様です。寒かったり、暑かったりの気候。
水が乏しいので思う様に洗濯が出来ません。川へ行って洗濯です。入浴は四日に一回、日曜日は半日外出ですが、マチ(牡丹江市)へ出ても、物価が高くて買い物などちょっとした日用品を買うだけ。日曜外出には、銭湯に行く事にしています。
朝は、三時半起床、それから六時迄テントの中で仮眠と云う事になっています。夕方六時夕食、消灯は九時です。
小包は、今の所輸送が複雑しているので、許されないものらしく早晩許される事でしょう。
胃腸も咽喉も今の所、大丈夫、益々元気ですから御心配なく。御回送の封書と端書、一昨二十一日夕、確に拝受致しました。手紙も何時か許される事でしょうから、そしたら、また愉快な便りを書きましょう。
元気で朗らかに過して居りますから、その点御安心下さい。どうぞ、近い人々、近かった人々によろしくお伝へください。
では、皆様方御自愛の程。
八月二十三日 夕 幕舎にて
御父上様
外みなみな様〈差出先〉満州牡丹江第一軍事郵便所気付
満州明第七〇一六 山田隊
イラスト:キヨボンさん
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