「特攻隊員と犬のクロ」⑦

2023年

終戦

 8月15日、終戦の日、全員でお寺のラジオの前に整列、ラジオで天皇陛下の御言葉(みことば)を拝聴することになった。雑音がはげしく、御言葉の内容は全くわからなかった。結局、「戦局きびしい折、国民全員さらなる気迫で敢闘せよ・・・・」とのご主旨では、と勝手な解釈をそれぞれしていた。

夕方、全隊員、今津浜海岸に集合させられ、戦隊長より、「終戦」を聞かされた。そして、自重を要請された。全員耳を疑い、問いなおす隊員も多数、泣きだす隊員もいた。村に帰りついた。村では、どの家も電球がこうこうと灯され、別世界に来た、という感じさえ受けた。(戦時中は、灯火管制がひかれ、電灯はつけられなかったのである)

 翌日、朝食時クロの餌の徴収が始まった。いつも庭先で待っているはずのクロがいない。
「クロ」「クロ」と数名呼んでも、何の返事もしない。
そのうち帰ってくるだろう、とみんな軽い気持ちだった。朝食後は、いろいろ訓話や雑談が続き、午前中が終わった。昼食時になった。しかし、クロの餌は朝のままで、蠅がたかり、そのまま残っていた。数名で別の寺まで探しに行ったが、どこにも居なかった。

 クロは、突然居なくなってしまったのである・・・・・・・・・・
                                〈つづく〉
絵:キヨボン

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