「特攻隊員と犬のクロ」④

2023年

こちらが声をかけ、手をあげると、向こうも気づいて、「兵隊さんだ!!」とさけびながら走り寄ってきた。

空襲で焼け出されたことなど気にもかけていない笑顔で、「兵隊さんはどこから来たの?」と尋ねるあどけなさに私もホッとした気になった。

「お家はどこ?」と尋ねると、指さされた方向100mぐらいのところに、逆V字形のトタン屋根が見えた。

焼け跡から拾い集めた波形トタン板をいきなり地面に逆V字形に立てかけただけの小屋であった。出入口はムシロを垂れたもので親子3人がやっと入れるくらいの広さしかないと思われた。 

 お父さんは出征し、お母さんと三人暮らしという。食べ物は市役所からの配給と田舎からおじさんが時々持ってきてくれるという。私は、雑のうから乾パンを取り出し、2人に分けてやった。

2人はむさぼるように食べた。網袋の中には、少しだが赤、白の色のついたコンペイ糖も入っており、子供たちは特に目をかがやかして色つきコンペイ糖もほおばった。

「お母さんにも持っていきたい」というので、ひとにぎりの乾パンと小銭(俺たち特攻隊員には銭など貯める必要もないので)ポケットの中にある半分以上の小銭を添えてやった。

やがて、母親らしき婦人がムシロを押し上げて出てきた。寝ていたらしくボウボウの髪をかきそろえながら、そしてモンペを着直し、深々と頭をこちらに下げてくれた。私は、「そのまま寝ていてください・・」と手ぶりを添えて挨拶を返した。

母親は、なんども頭をさげてくれたが、ひどく疲れている様子があり、すまなそうな素ぶりでまた小屋の中に入っていった。                           (つづく)

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