米軍従軍カメラマンが撮影した戦場と日本の戦後

2024年

戦場と性暴力      瀬下 三留

 NHKで”グランパの戦争〜従軍写真家が遺した1千枚〜”という番組が放送された。

オランダに暮らす写真家のマリアン・イングルビーさんは、家族の忌まわしい過去を発見した。

マリアンの祖父、ブルース・エルカスが撮影した太平洋戦争の写真だ。

 激戦地、硫黄島に並べられたアメリカ兵の遺体や頭髪が残ったまま晒された日本兵の頭蓋骨、さらに占領下にあった進駐兵向け「慰安施設」の内部と見られる、上半身裸で胸を露わにした二人の日本人女性が、ニコニコしながら米兵と見られる男性と戯れている極めて珍しい写真も含まれていた。
ほかにも戦地の日常を写したものもあった。

ブルース・エルカスは孫娘にあたるマリアンに、戦争の事や戦場での出来事については何も語っていなかった。

写真の多くは硫黄島の戦いや進駐後、日本で撮られた写真もあった。
硫黄島で降伏した日本兵が、米兵からもらったと思われるタバコを吸いながら、微笑んでいるブルース・エルカスと一緒に映っている写真もあった。

なぜ祖父ブルースは微笑んでいたのだろうか?
日本兵はどんな気持ちだったのだろうか?
マリアンさんの疑問は募ってくる。
硫黄島で戦った日本兵は21000人、その中で捕虜となったのは、わすが1000人。

ブルースが遺した写真は、そこから次は日本進駐の様子を映す事になる。
従軍写真家として、日本全国をまわり敗戦国の姿を映す事になった。

それらの300点の写真のうちマリアンが発表するのをためらった写真があった。
それは進駐軍向け「慰安施設」で撮られた写真である。
「慰安施設」とは「特殊慰安施設協会」(RAA)の事である。

1945年8月28日特殊慰安施設協会(以下RAA)幹部が皇居前で宣誓式と万歳三唱を行なった。
RAAが占領軍専用の慰安施設で、日本政府の援助で作られた。

目的は連合国軍兵士による強姦や性暴力を防ぐためだった。
日本政府がRAAを設立した背景には、ヨーロッパ戦場でアメリカ兵によるレイプ被害者が、14000人に達していたことや、沖縄戦でも連合国軍上陸後アメリカ兵により強姦された女性が10000人と推定されていた。
さらに連合国軍が進駐した神奈川県下で、10日間で1336件の強姦事件が発生し、上陸後1か月だけで3500人以上の女性が連合国軍兵士による被害を受けた事があったのだ。

上記の問題以外にも、当時戦争未亡人やその子女達が、生活の術を失くして貧困にあえいでいた一面もあった。

RAA全体では53000人の女性が働いていたと言われるが、収入の面では当時の銀行員の初任給80円に比べて慰安婦の月収は、5万円にものぼる女性もいたという。

女性募集に関しては、全国紙の新聞に広告を掲載して募った。
人種差別が横行していた米軍の要求にも沿った日本政府は、白人兵士用、黒人兵士用と慰安施設を仕分けにも応じていた。

また、RAAとは別に連合国軍女性兵士用の「慰安夫」も存在していた。

RAA宣誓式の同日、連合国軍の先遣部隊は厚木に到着して、そのまま慰安施設のある小町園に赴き、慰安女性と行為を行なった。
翌日以降も早朝から多くのアメリカ兵が詰めかけた。

1946年になると、米国議会の要請で3月にはRAAは廃止となる。
RAA閉鎖後、職を失った女性は”パンパン”と称される街娼になったり、風俗街に移動した者もいた。

RAA開設の目的は、「女性の純潔を守る」という事だった。
RAA廃止前の女性への性暴力被害事件は1日平均40件だったが、廃止後は1日平均330件であった。

一橋大学、平井和子博士論文による「日本占領を問い直すージェンダーと地域からの視点ー」の終章によると、敗戦直後に日本政府が勝者へ向けてRAAや特殊慰安施設を開設したのは、「性の防波堤論」に依拠するセクシャリティ認識にもよるものだ。この認識は当時の一般国民男女にも女性国会議員や地域婦人会メンバーにも共有されていた。

そしてこの「性の防波堤論」と男性兵士には「慰安」が必要という「男性神話」は現代の一部の政治家にも引き継がれている。

しかし、占領軍「慰安所」は「防波堤」になるどころか、占領軍兵士の性犯罪の温床となり、新たな買春地域を生み出した、と論文を締め括っている。

この戦争と性暴力は、のちの混血児問題やベトナム戦争時における韓国軍の犯した性暴力からの「ライダイハン」問題にも進んでしまった。
             参考資料 ウィキペディア「特殊慰安施設協会」
                 

参考:映画 『にっぽんぱらだいす』

「にっぽんぱらだいす」

公開日は、1964年10月4日 松竹株式会社 上映時間93分

終戦直後から昭和33年の売春防止法発効までの遊郭を舞台に、そこでたくましく生きる女たちとその客や業者たちなど、さまざまな人間模様を軽快なタッチで描く。
※ネット検索「松竹シネマPLUS」で、見ることが出来るようです。
 (DVD配信・購入・無料トライアルもあるようです。) 
        引用:松竹株式会社 【作品データベース】

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