先日、「6.17平和のつどい」(生協コープ主催)で、話をされた石神斉也さんの話の中で、戦時中に殺された動物園のゾウの話がありました。戦争で死ぬのは、人間だけではない、地球上のあらゆるいのちが、殺されていく、ということを人間は、知っておかなければなりません。
絵本「かわいそうなゾウ」「そして、トンキーもしんだ」 瀬下 三留
皆さんは、「かわいそうなゾウ」、または「そして、トンキーもしんだ」、という絵本をご存知だろうか?
先の大戦時に上野動物園で飼育されていた、ワンリー、トンキー、ジョンという三頭の象が、戦時の混乱を招くとして「動物園非常処置要綱」という方針の下、殺処分すべく動物園に指令が下って、亡くなるまでの悲劇を描いた実話です。
殺処分方法には、簡単な銃殺は除外されていました。
処分時に音が出ると市民に不安を与えるからという事で許可されませんでした。
飼育員たちは毒殺を試みますが、象たちは毒入りエサがわかっていて、食べないので「絶食」という残酷な方法をとるしかなかったのでした。
最初にジョンが息絶えました。ワンリーとトンキーも時間の問題と思われましたが、二頭とも飼育員を見かけると、覚えた芸をして見せて、必死にエサをねだる姿に飼育員たちは苦悩し、泣きながらこっそりエサを与えたりしていました。
昭和18年9月4日には亡くなった動物たちの慰霊祭が行われましたが、この時はワンリーもトンキーもまだ生きていたので、隠されて慰霊祭は行われました。
9月11日ワンリーが死に、死んだワンリーのそばから離れなかったトンキーは、水さえもらえず23日に息を引き取りました。
戦争によって殺処分された他の動物も、ジョン、ワンリー、トンキーの象たちも国民と同様に国際紛争の犠牲者でした。
戦後79年経ってこの様な惨劇が起きない様に、国際関係を安定化するのが政治であり、政府の役割です。
現時点では、先の大戦で国家の犠牲となった動物たちのように直接的に物理的な犠牲はないかもしれませんが、国家間の関係で犠牲となっているのではないかと危惧している動物がいます。
それはパンダです。
昨年(2023年)、上野動物園生まれのシャンシャンが、中国との契約上「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」に返還されました。
パンダは全て中国に所有権があって、上野動物園は年間約1億円で貸与されたパンダを飼育しています。
たとえ上野動物園生まれのシャンシャンでも、中国に返還しなくてはならないという契約です。
7歳になるシャンシャンは耳が良くて人の声に反応するのです。
しかし言葉を理解しているはずもないのですが、パンダ保護センターを訪れた日本人観光客の日本語に反応して、柵の近くまで近寄ってきました。
シャンシャンに「よく頑張ったなあ。」と日本語で言葉をかけると、シャンシャンは日本人観光客のそばで日本語に聞き入るようにじっとしていました。
その場の日本人観光客のすすり泣く声が聞こえた、という事でした。
親から離されて異国に連れてこられた、シャンシャンが不憫でならない。
中国政府が、自国のいいようにパンダを政治利用して、パンダ外交で国家の力と威信を高めようとする姿勢は、軍事力を使わないサイレントインベージョン(静かなる侵略)そのものと思います。
確かに絶食させたり、殺処分されている訳ではありませんが、交渉相手国との外交政策で如何ようにもするのが中国の方針です。
たとえば同じく希少動物を抱えるオーストラリアは、コアラやカンガルーをそのように政治利用することはしていません。
戦争で犠牲となった象や他の動物たちの二の舞をパンダにさせてはいけないと強く思っています。
参考文献
「動物園・その歴史と冒険」 溝井裕一
「そして、トンキーもしんだー子が父からきくせんそうどうわ」 NHK総合テレビ
「かわいそうなぞう」 土家由岐雄
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